迫り来る技術革新
高速回転のガスタービンと高周波交流発電機、そしてフライホイールエネルギー貯蔵装置の融合が新世代ターボトレインを現実のものとしたのです。
(1)軍事技術 軍事大国アメリカではガスタービンの利用に積極的で、航空機のみでなく、空母を除く高速艦船の多くはガスタービン駆動となり、世界初の実用ガスタービン戦車M1を量産開始してすでに17年以上たっています。すでにこの戦車のエンジンは次世代機の試験をはじめており、ガスタービン駆動を継続するようです。そして次世代艦船、地上車両用動力の開発に積極的で、その中でフライホイールエネルギー貯蔵電気式ガスタービン駆動が重要な地位を占めています。おそらく次世代の戦車や大型車両はこのシステムが採用され、原子力を除く艦船用動力としても注目されています。軍用では小型軽量性、迅速性、隠蔽性という面でガスタービンはもってこいですが、やはり部分負荷での燃料消費が問題になります。これを解決する重要な技術として注目されているのです。
(2)次世代ハイブリッド自動車 似たようなしくみが自動車界でも注目されていました。大気汚染と地球温暖化の防止のため、最近にわかに高効率の自動車の開発が急務となりました。前記のように化石燃料や原子力に依存しない完全な電気自動車や燃料電池への移行はしばらく時間が必要で、それまでのつなぎとして内燃機関の欠点を補うためにハイブリッド車に関心が集中するようになりました。
トヨタのプリウスのような方法もガソリンエンジンやディーゼルとの組み合わせの場合優れた方法ですが、市内で排気ガスをまったく出さない(ゼロエミッション)ことを要求されているアメリカの規制ではより積極的に電気動力を主体とした車が必要です。そこで電気モーターだけで駆動され、エンジンは発電専用とし、電気が十分なときはエンジンは完全に停止できる必要があります。以前は発電セットと化学電池、走行用モーターまでそろえると大きく重くなり充放電の損失も大きく満足な性能が出ませんでした。
しかし、エレクトロニクスの進歩は大電力の周波数と電圧を自在に制御可能としました、小型軽量の高速回転誘導(同期)電動機を車両用として利用できるようにしてしまったのです。そしてフライホイールの実用化。これは化学電池よりエネルギー密度が高く、大電力を貯蔵、急速放電可能で高効率、長寿命という優れものです。
後は超小型の発電装置が必要。発電機は回転数ガ高いほど小型にできます。普通の発電機では商用電源との関係で3600回転/分、ディーゼル発電機はエンジン常用回転数の関係で1800回転/分で、結構大型になります。ここで注目されたのがガスタービンの高速回転。大きなものでも毎分数万回転はざら。小型なら十万回転以上。この回転数で交流発電機を回すと通常の発電機と比べると非常に小型になります。ガスタービンの出力軸に直結された高速発電セットはディーゼル発電セットの数分の一から十分の一の大きさ、重さとなってしまいます。これならハイブリッドにしても重量的な不利は少なく、純粋な化学電池式電気自動車と比べると非常に強力になります。アメリカではこの方式によるハイブリッド車の高性能をアピールするため、試作車はなんと320km/h以上のスピードが出るレーシングマシンとして登場しました。
(3)フライホイール ではそのフライホイールとはどんな特徴を持っているのでしょうか。普通のバッテリーが電気エネルギーを化学エネルギーに変えて貯蔵するのに対し、フライホイールは回転の運動エネルギーに変えて保存します。フライホイールとははずみ車のことです。通常は真空の容器内で回転する炭素系繊維の円盤で構成され、発電機兼加速用モーターのローターも直結されますのでこれら両者の回転にエネルギーが貯蔵されます。化学2次電池(鉛蓄電池やリチウムイオン電池)に比べ、充放電時に熱として失う電力が少なく、しかも短時間に大電力を充放電でき、小型軽量で長寿命という長所があります。
化学2次電池では完全な充放電を繰り返せるのは実用上、数百回しかありません。これでは維持コストも馬鹿にならず、厄介な重金属の廃棄物が大量に出ますから環境汚染も危惧されます。フライホイールで寿命が問題となるのは基本的にベアリング部分しかありません。そのため磨耗のない超伝導ベアリングまで研究されています。
貯蔵できるエネルギーは回転する円盤の重さと半径および回転数の2乗に比例します。半径1.2m、重さ2トンほどの円盤を毎分一万回転にしておくと、6分間4000馬力程度の力を取り出せることになります。2000馬力でよければ12分間持ちます。これは恐るべき量で、リチウムイオン電池でもまったく及びません。
フライホイールの効率はほとんど発電機兼加速用電動機の効率で決まります。これらは95%を超えますので、蓄電器としての効率は85%〜95%に達します。これは化学2次電池の70%前後を大きく越えています。
現在電気自動車が期待されていますが、意外と蓄電池の効率についての議論が出ません。電気が太陽エネルギーから得られたものなら多少効率が悪くても問題ありませんが、現在のように火力発電や原子力発電から得た電気を使う場合は問題です。せっかくの電気を30%以上を捨ててしまうのです。火力発電の効率が60%に迫りつつあるとはいえ、その70%も有効利用できないとなると高効率ディーゼルやガスタービンのハイブリッド自動車に対する化学2次電池式電気自動車の優位性が薄れてしまいます。化学2次電池式電気自動車が優位に立つには太陽エネルギー発電との組み合わせが不可欠なのです。
欠点は効率を上げるために摩擦の少ない耐久性のある軸受けが必要な点や真空を保つ面と、事故などでは損したとき高速回転する円盤が飛び出さないように、しっかりしたケースに収めないと行けない点、ジャイロ効果によって方向転換に余分な力が生じる場合がある点などです。
小型のガスタービンを効率のよい最大出力状態で回してせっせと電気を作らせ、仕事に使った余分な電気はフライホイールにため、タービン発電機の力を超えるような電力が必要なときは必要に応じて一気にフライホイールから取り出すというシステムが浮かびます。そうです、ガスタービンを苦手なだらだら運転、つまり部分負荷から開放し、電気モーターの得意な短時間大出力を利用した電気式の車両を作れば、ちょうど架線から必要時に存分に電力を供給されて強力なパワーを発揮している電気車と同じ振る舞いを内燃車もできることになります。8000馬力必要な列車に3000〜4000馬力の発電セットをつんで、加速や勾配登坂時に不足する部分をフライホイールから取り出せるようになるのです。ちょうど最近の在来線用高性能電車が定格の2倍くらいの性能を発揮して走っているようなことを気動車でもできるようになるのです。フライホイールまで積むと車両が重くなりすぎないか? おそらくフライホイール搭載による重量増加は発電セットの小出力化、小型化で帳消しになるはずです。
(3)セラミックガスタービン いよいよ実用化が近くなってきました。夢の耐熱素材といわれながら脆いがゆえになかなか実用化できないエンジン用セラミックス。アメリカはもちろん日本でも小型発電用、自動車用としてすでに耐久テストが繰り返され、小型ガスタービンとしては驚異的な熱効率40%以上に達しています。実現すればガスタービンハイブリッド自動車が一気に現実味を帯びてくるでしょう。